もしあなたがカテーテル治療を受けるとき、血管の中に通されるカテーテルにわずかな段差や引っかかりがあったら、どう感じるでしょう。
――血管にスムーズに入らない
――途中で引っかかり、違和感が生じる
想像すると決して気持ちのいいものではありません。医療現場では、その違和感を生まないために「操作性」や「安全性」といういう観点から、厳しい管理が行われています。
ではその当たり前の安全は、製造のどこで、どのように支えられているのでしょうか。
医療用カテーテルは体内に挿入されるデバイスである以上、わずかな加工品質の差が、安全性や信頼性に直結します。本稿では、カテーテルの安全性を支える重要な工程の一つである溶着加工に焦点を当て、その考え方と加工方法の使い分けについて解説します。
カテーテルの「つなぎ目」は、なぜ重要なのか
カテーテルは一度体内に入ってしまえば、外からその状態を確認することはできません。
だからこそ製造段階での作り込みがすべてになります。なかでも特に重要なのが、カテーテル同士をつなぐ溶着部です。
外径の段差
カテーテルを挿入・操作する際の引っかかりや違和感につながりやすい
内径の段差
血液や薬液などの流体が通る際に、抵抗や滞留を生みやすい
いずれも外からは見えにくいため、製造段階で徹底的に管理されるポイントです。
カテーテルの溶着加工は、単に部品同士がつながっているだけでは十分とは言えません。実際の製造現場では、「段差がないか」「内外面が連続しているか」「毎回同じ品質で再現できているか」といった点が確認されます。つまり溶着できるかどうかはあくまで出発点であり、どれだけきれいに、安定して仕上げられているかが重要になります。
バルーンカテーテルの溶着にレーザが使われる理由
”カテーテル”と一口に言っても、その種類や用途によって、求められる性能や品質のポイントはさまざまです。 なかでもバルーンカテーテルは、体内の細い通り道を内側から広げるために使われる医療機器として知られています。
代表的な用途が、狭くなった血管を押し広げる治療です。特に心臓の血管治療ではPCI(経皮的冠動脈インターベンション)
と呼ばれる治療法でバルーンカテーテルが用いられており、狭心症や心筋梗塞の治療に欠かせない存在となっています。
一方でバルーンカテーテルは血管治療だけに使われているわけではありません。
消化管や尿路など、体内の「管状構造」を対象とした治療においても、狭くなった部分を広げる目的で使用されることがあります。
用途ごとに形状や材質、構造は異なりますが、幅広い医療分野で活躍しているデバイスである点が特徴です。
こうした背景から、バルーンカテーテルの溶着部には極めて高い品質が求められます。体内で直接使われる部位の接合にわずかな段差やムラがあると、操作性や安全性に影響が出る可能性があるためです。そのため段差を抑えた精密な加工が可能なレーザ溶着が、バルーンカテーテルの溶着方法の一つとして採用されています。
段差を出さないための「レーザの使い方」
前章で述べたように、バルーンカテーテルの溶着ではごくわずかな段差であっても、操作性や安全性に影響を与える可能性があるため高い品質が求められます。その要求に応えるために、レーザ溶着では単に「レーザを当てて溶かす」のではなく、加熱の仕方そのものを細かく制御しています。レーザ溶着と聞くと、「レーザを当てて溶かす」という単純な加工を想像しがちです。しかし実際には、「どこを」「どれだけ」「どの順序で」加熱するかによって、仕上がりは大きく変わります。
部位に応じた加熱条件の調整
バルーンとチューブが重なる部分では、部位ごとに肉厚が異なります。この状態で同じ条件のままレーザを照射すると、溶融量に差が生じ、段差が出やすくなります。そこでレーザ溶着では、重なり部分と薄肉部分で加熱条件を調整するなど、部位に応じた制御が行われます。
連続的な条件変化による溶融量バランス
条件を連続的に変化させながらレーザを照射することで、溶融量のバランスを取り、外径段差を抑えます。
仕上げ工程では収縮チューブなどを併用し、形状を整えながら最終的な外観を作り込むケースもあります。
内径形状の保持
外から見える外径だけでなく、内径側の仕上がりも重要な管理ポイントです。内径に段差があると、血液や薬液などの流体の流れや、カテーテル操作性に影響を与える可能性があります。そのため溶着時にはチューブ内部に心棒(マンドレル)を挿入して内径形状を保持した状態で加工する方法が用いられます。
回転照射による均一溶着
レーザ溶着では、チューブを回転させながら同一ポイントにレーザを照射する方法が用いられます。これにより、加熱範囲を広げすぎることなく、全周を均一に溶着することが可能になります。
レーザ溶着では素材の色や透過率が課題として挙げられることもあります。しかし実際の加工現場では、黒色や透明、濃色といった材料であっても、条件設計や材料の組み合わせを工夫することで対応できるケースがほとんどです。材料同士の適合については事前確認が前提となりますが、レーザ溶着は比較的広いに対応できる加工方法です。
このようにバルーンカテーテルにレーザ溶着が使われる理由は、単に「精密だから」という一言では語れません。体内で使われる医療機器であることを前提に、段差を出さず、安定した品質を作り込める――その要求にこたえやすい加工手段が、レーザ溶着なのです。
カテーテル溶着は「加工方法の使い分け」が重要
ここまで読むと、「それなら医療用カテーテルの溶着は、すべてレーザで行えばいいのでは」と思われるかもしれません。しかし実際の医療用カテーテル製造では、用途や形状に応じて溶着方法を使い分けることが、品質を安定させるうえで重要になります。
レーザ溶着が適している領域・適さない領域
レーザ溶着は局所を精密にコントロールできる点に強みがあります。一方で、すべてのカテーテル溶着に最適というわけではありません。その一例がカテーテルチューブ同士の溶着です。理屈の上ではチューブ同士をレーザで溶着することも可能です。ただしその場合、突き合わせる端面の精度が極めてシビアになります。断面が完全に垂直であることや、反り・ヒケ・ガタつきがないことなど、溶着前に満たしておくべき前提条件が少しでも崩れると、安定した溶着は難しくなります。
またチューブ同士を重ねて溶着する場合でも、レーザでは重なり部分の厚みを十分に抑え込むことが難しく、わずかな段差が残りやすい傾向にあります。医療用途では、「溶着できるかも」よりも、「きれいに、安定して仕上がるか」が重視されます。この観点では、レーザが最適と言えないケースも存在します。
カテーテルチューブ溶着に適した誘導加熱と、専用機という考え方
当社ではカテーテルチューブ同士の溶着には、高周波誘導加熱を用いることをお勧めしています。誘導加熱ではチューブの内側に挿入した心棒を均一に加熱し、その熱をチューブに伝えることで、全周を安定して加熱しやすくなります。そのため高周波誘導加熱は、カテーテルチューブ溶着において、
-チューブ同士の突き合わせ溶着
-段差を抑えた仕上がり
といった点で、適した加工方法と言えるからです。レーザ溶着が「局所を精密にコントロールする加工」だとするならば、誘導加熱は「全体を均一に整える加工」と位置づけることができるでしょう。
この違いはバルーンカテーテルとカテーテルチューブで、溶着に求められる条件そのものが異なることに起因します。体内に挿入されるかどうか、段差にどこまで厳しいか、操作性や流体への影響をどの程度考慮する必要があるか。
こうした条件は用途によって大きく異なります。そのため、一台の汎用装置で何でも対応するよりも、用途別に最適化した専用機を選択する方が、安定した品質を得やすくなります。
こうした考え方のもと、当社ではレーザを用いたバルーンカテーテル溶着機と、高周波誘導加熱を用いたカテーテルチューブ溶着機の両方をラインアップしており、デバイスの構造や用途に応じて、専門スタッフが最適な溶着工法をご提案できる体制を整えています。また装置そのものだけでなく、現場で再現性の高い加工を無理なく継続できるよう、日常管理を前提とした運用面についても実践的なアドバイスを行うことで、医療用カテーテルの品質を支えています。
日常管理を前提とした装置設計とサポート
- 出力を定期的(毎朝など)に測定する
- 毎回、同じ溶着条件で溶着する
- 定期点検によって装置の状態を一定水準に維持する
溶着方法は「技術」と「判断」で選ばれる
カテーテルの溶着加工では、「バルーンカテーテルにはレーザ溶着」「カテーテルチューブには高周波誘導加熱」といった考え方に基づく使い分けが行われています。これは、どちらの技術が優れているか、という話ではありません。用途に対して、どの方法が最も安定した品質を実現できるか、その判断の結果です。医療用カテーテルに求められるのは「溶着できるかどうか」ではなく、段差を出さず、再現性をもって加工できることです。
患者様が、安心して使えること。医療現場が、安心して扱えること。
その当たり前を、製造の現場から支えているのが、私たちのご提供する溶着加工という技術なのです。