バーゼル条約とプラスチック廃棄物——環境対応に貢献する「接合技術」とは

世界で進む環境規制の中でも、プラスチック廃棄物に関する国際的なルールとして注目されているのが「バーゼル条約(バーゼル法)」です。特に2021年の改正以降、ポリ塩化ビニル樹脂(塩ビ/PVC)を含む廃プラスチックの輸出は、大きく制限されるようになりました。この動きは廃棄物処理業界にとどまらず、プラスチック製品の加工・設計・製造工程そのものにも影響を及ぼし始めています。
今、世界は“モノづくりのその先”に注目しています。バーゼル条約はその象徴とも言え、加工の現場でも“廃棄後の扱いやすさ”が評価基準の一つになる時代が来ています。ここでは、バーゼル条約の概要をわかりやすく説明しながら、廃プラスチックに関する規制のポイントを整理します。さらに加工現場が取り組むべき環境対応と装置技術の可能性について解説します。

目次
  1. バーゼル条約とバーゼル法
  2. 加工現場から始める環境対応──今、設備に求められる視点とは
  3. まとめ:バーゼル時代の「選ばれる装置」とは

1.バーゼル条約とバーゼル法

廃プラスチックの越境移動に制限

バーゼル条約(正式名称:「有害廃棄物の越境移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」)は、1989年にスイス・バーゼルで採択された国際環境条約です。目的は明快で、「先進国から開発途上国へ、安易に有害な廃棄物を押しつけないこと」。特に1990年代以降問題視されてきた「リサイクル名目のごみ輸出」が背景にあります。
2021年にはプラスチック廃棄物の扱いが大きく見直され、混合プラスチックや汚れた廃プラは原則として自由な輸出ができなくなりました。簡単に言うと、「汚れていたり、素材が混ざっているプラスチックごみは、もう簡単には海外に出せません」というルールができたのです。中でも、ポリ塩化ビニル(PVC)を含む塩素系プラスチックは、燃焼時の有害性などから“規制対象”とみなされ、事実上の輸出禁止となっているのが現状です。


バーゼル条約は国際的なルールである一方で、違反時の罰則は各国の国内法に委ねられています
日本ではこの条約の実効性を担保するため、1992年に「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(通称:バーゼル法)」が制定されました。万が一、これに違反した場合、企業や担当者が国内法に基づき罰金や懲役、行政処分を受けるリスクが生じます
条約の内容を正しく理解し、国内法の枠組みで対応していくことが、企業にとってのコンプライアンスの第一歩となるのです。

塩ビ製品はなぜ規制対象なのか?

塩ビ(PVC)は、加工性・耐久性・コスト面で優れた素材として、シート、カバー、文具、医療用品など多くの用途に使われています。一方で、焼却処理時にダイオキシン類を発生するリスクがあること、またリサイクルが難しいとされる構造が多いことから、バーゼル条約においては「有害なプラスチック廃棄物」と分類されています。

厳格な許可制度

仮に再資源化を目的とする場合でも、事前通報・同意制度(PIC手続)による厳格な許可を受けない限り、海外に出すことはできません

製品設計の変革

塩ビを扱う製品メーカー・加工業者は今後、「使い終わった後にどう処理されるか」まで見据えた設計・加工が求められる時代に入ったと言えます

使用後のプラスチックは「規制対象」になる

バーゼル条約の規制対象となるのは、「廃棄物としてのプラスチック」のうち、汚れがあるもの、異なる素材が混ざったもの、有害性があると判断される素材(たとえば塩ビ)を含むものです。新品のプラスチック原料や製品としてのプラスチックは規制対象外ですが、一度使用され“廃棄物”となった時点で、性状や構成に応じて輸出規制の対象となります。中でも塩ビは、焼却時に有害物質を発生する懸念があるため、特に厳しく扱われるケースが多く、「再資源化目的であっても自由に輸出できない」というのが現状です。
このような規制に違反し、たとえば
・規制対象となる廃プラスチックを適切な手続きを経ずに輸出
・有害性のある廃棄物を「製品」と偽って申告して輸出
といった行為を行った場合、日本では「バーゼル法」や「廃棄物処理法」に基づいて、罰金や懲役、行政処分などの処罰対象になります。「知らなかった」「自社は加工だけだから関係ない」とは言えない時代。製品の“その後”まで想像する視点が、製造現場にも必要とされています。

リサイクル適性を高める「単一素材」での加工

バーゼル条約では、“汚れがなく、他の素材が混ざっていないこと、あるいは混在がごく軽微であること”が規制対象外の条件とされています。つまり、単一素材で構成され、分別・再資源化しやすい製品設計が求められるということです。
異種素材の貼り合わせ、多層ラミネート構造、リベットや接着剤による複雑な接合などは、リサイクル時の分解を困難にし、「輸出できない廃棄物」になってしまうリスクを高めます。だからこそ、再資源化しやすい構造・加工法を支える装置や技術に、今あらためて注目が集まっているのです。

2.加工現場から始める環境対応
   今、設備に求められる視点とは

製品のライフサイクル全体で環境配慮が求められる時代において、「何で作るか」だけでなく「どう作るか」も問われています。加工段階で廃棄物の質や量が大きく変わるからこそ、設備選びが環境対応の第一歩になる。現場で使われる装置が、廃棄物の行方を左右する時代です。

多様な樹脂への対応で、環境対応と加工品質を両立 

精電舎電子工業では、「超音波」「高周波」「レーザ」をコアテクノロジーとし、プラスチックの溶着・溶断装置をはじめとした、各種二次加工装置および加工技術を提供しています。

〇塩ビ同士、PE同士など「同一素材間」での溶着が可能
〇糊やリベットを使わない非接触型の加工
〇バリの発生が少なく、繰り返し精度が高いため、廃棄ロスを抑えられる

近年では、生分解性フィルムやバイオマス由来樹脂、ガラスフィラーや炭素繊維などを含む複合素材など、より多様で難易度の高い素材への対応が製造業各社に求められています。私たちは、多数の工法と長年培ってきた技術・ノウハウを活かし、これら新素材に対する溶着技術の研究・開発を継続的に行っています。

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3.まとめ:バーゼル時代の「選ばれる装置」とは

バーゼル条約によって、製品に“廃棄後の責任”が強く問われる時代になりました。それは単に“規制を避ける”ための消極的対応ではなく、“環境対応を前提としたものづくり”に取り組む企業姿勢が可視化される機会でもあります。
プラスチック製品は用途や形状が多岐にわたり、それに応じた加工方法も複雑化しています。精電舎電子工業は、溶着・溶断技術における総合メーカーとして、あらゆる製造現場に最適な工法と技術をご提案いたします。設計段階から加工現場まで、環境対応を見据えたモノづくりを支える企業であり続けることが、私たちの使命です。

参考資料:環境省「廃棄物等の輸出入管理の概要」
        「プラスチックの輸出に係るバーゼル法該非判断基準」
        「廃棄物等の越境移動規制に関する資料集」

公開日:2025/10/01

カテゴリー:改善・効率化