振動・摩擦応用技術

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振動溶着の原理

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物体を擦り合わせると摩擦熱が発生する

このセクションでは、振動と摩擦を応用した技術について解説します。まずは「振動溶着」の原理から押さえていきましょう。

振動溶着は摩擦熱を利用する

振動溶着は、溶着させるワークどうしに荷重をかけ、片方のワークを水平方向に振動させることによって接合面に発生する「摩擦熱」を利用して溶着させる工法です。摩擦熱は、物体同士を押し当てながら擦り合わせることで発生します。

例えば、木材同士を擦り合わせるによって火を起こす方法がありますが、これも摩擦熱を利用しており、摩擦熱で得る事の出来るエネルギーが大きいことを示しています。

振動溶着は電磁コイルとスプリングの共振・吸引力を利用して、左右方向の振動を発生させます。スプリングは約200~260Hz帯で共振し、最大約1.8㎜の往復振動を繰り返します。この振動によってワーク同士を擦り合わせ、発生する摩擦熱によって溶着します。

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振動溶着機の基本構造

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摩擦熱によって大型成形品の溶着を行う装置

振動溶着は大型成形品や複雑な形状のワーク溶着に優れています。
振動溶着機は、自動車部品、家電部品、建築材料、医療部品など、さまざまな分野で使われています。

溶着振動機の基本構造

振動溶着機は振動するスプリング若しくはスイングフレームに上治具を組付けます。つまり、スプリングおよびスイングフレームと上治具が一体化して振動する事となり、上治具にセットされたワーク(プラスチック製パーツ)も同様に振動します。また、油圧シリンダで昇降するリフトテーブルに治具をセットします。

ワークを上治具と下治具にセットし、油圧シリンダでリフトテーブル上にある下治具を上昇させて加圧し、溶着面を左右最大約1.8mmの振動をさせる事により、プラスチックが溶融するのに必要な摩擦熱を得ます。

通常2~5秒の発振の後、振動は停止し2つのパーツは自動的に位置ずれすることなく元の位置に戻り約1~2秒程度の冷却後に強力な溶着を得られます。

振動溶着機は現在、自動車部品・家電製品・OA機器等プラスチックを使用した製品に幅広く使用されています。

振動溶着では、溶着部の面積も大きく取れるため溶着後の溶着強度も母材強度の約50%以上の強度が得られます。

振動溶着の特長

  • ビス・パッキン・接着剤等の消耗品を使用せずに組立・密閉が可能なため、消耗品コストが不要です。
  • 油圧駆動のリフトテーブルによる荷重で、ソリなどのプラスチックの変形を加圧力で矯正しながら溶着する為、高い剛性と寸法精度が得られます。
  • 超音波に比べ大型で3D形状も含め複雑な形状をしたパーツの溶着も可能です。
     但し、3D形状では振動方向が水平で、尚且つ傾きが無いことなどの制約があります。
  • ガラス含有パーツの溶着も可能です。また、環境にやさしい工法でもあります。
  • 消耗品未使用で熱可塑性樹脂同士の溶着により、外観も比較的綺麗で除去する不純物が無く、リサイクルも容易に行えます。
  • 熱板など外部で熱を発生させる機構部が無く、立ち上げ時間も短いため電力消費量が比較的少なくランニングコストを低減します。
  • 治具や装置機内にバリの付着もほとんどなく、メンテナンス軽微となります。
  • 摩擦発熱は過度な温度上昇がなく、プラスチックを傷めずガスや臭い等も発生しません。
    また、溶着面以外はそれほど熱くないため、溶着後すぐに取り出し可能です。
  • 摩擦接触面で熱が発生するため、溶着部以外の熱変形がありません。

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振動溶着に適したワーク設計

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重要な要素は3つ

振動溶着の可否および溶着品質の安定性は、「振動方向」「治具質量」「溶着部形状」の3つの要素が重要となります。

振動方向と製品のセット方向

溶着部に傾斜のある製品を例に挙げます。

下記イラストは3D形状部品に対する振動方向を表しています。振動方向Aは部品形状が振動方向を妨げることがないため溶着は可能です。一方、振動方向Bでは部品形状の傾斜(角度)が振動を妨げてしまいます。

このように振動を妨げる方向に製品をセットしてしまうと、摩擦熱が発生しないため溶着は困難となります。また、振動方向Aの場合でも角度が付くと荷重が直接伝わりにくくなるため、角度のない部分よりも溶け量が少なくなる傾向にあります。

下記グラフは部品の角度と溶け(沈み込み)量を表したものです。

振動側・静止側部品の選定と治具質量

振動側・静止側部品の選定に関しては、上治具の質量が重要になります。振動側の治具(上治具)は質量範囲(制限)があります。機種ごとに異なりますが、範囲を超えた治具は搭載できないので、範囲に合わせられる部品を上側に持ってくる必要があります。

下側は治具でしっかり部品を保持できる形状である方を選択します。大きなワークを下にする場合が多いので、注意が必要です。

溶着部形状(ジョイントデザイン)

振動溶着では、左右最大約1.8mmの振動をあたえるため、振動中に溶着リブとトラップが接触しないように距離を保つ必要があります。また、角度がある場合などは溶け具合が違うため、より均等に溶けやすいデザインにするなどの対応が必要となります。

耐圧基準がある部品では、リブの形状や大きさなども考慮し、試作部品でリーク試験・耐圧試験を行い、何回か形状変更が必要になる場合もあります。

振動溶着機におけるリブ形状の5つのポイント

  1. 気密と強度を必要とする場合:全周外周にリブを設けること。
    代表例:ランプ/レンズ・インテークマニホールド・キャニスター等の自動車部品のほか、インクタンク・トナーカートリッジ・アイロンタンクなどの事務・家電機器部品
  2. 強度を必要とする場合:一定の面積を確保(一様にリブを設けて)して溶着する。
    代表例:グローブボックス,リテーナー
  3. 溶着リブの剛性
    リブ幅に対して高さが適正で無い場合、加圧・振動時にリブが座屈し、溶着不良が発生する(要注意材:PP,POM)。
  4. 溶着リブの配置
    振動方向に平行にあるリブと直角にあるリブでは、力(振動)の受け方が変化するため、配置を考慮する必要がある。
  5. 溶着リブ受け
    リブの受け側は平らな面であることが必要であるが、成型品の受けに溝を設定し、その両端がR形状になっている場合は、以下の点留意。
    • 振動で左右にリブが動いた場合、このR形状に乗り上げて接触面が離れてしまい、発生した熱が大気放出され効率が悪くなる。
    • 接着面が離れない場合でもリブに横からの応力がかかり、座屈やリブの角が取れ接触面積が減る恐れがある。

これを防ぐために、相手側にもR形状をかわす高さのリブを設けるのが得策だが、そのリブの幅は振動側のリブの幅よりも大きくすることが望ましい。

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バリ除けに効くトラップとフランジ

詳細は後述の「振動溶着の課題解決」に譲りますが、振動溶着の最大の課題である「バリ発生」を最小限に抑えるためには、溶着リブの形状に加え、「トラップ」と「フランジ」の形状も重要になります。それぞれのポイントをまとめてみました。

トラップ

溶着後にワークの内側外側に溶けたバリがはみ出さないようトラップを設けます。ただし、意匠上と内部にバリが出ても問題ない場合は不要です。また、リブが想定量溶けた場合、相手側のワークにわずかに接触するか、やや隙間があく程度の高さに設定することを推奨します。

フランジ

相手側のワークに完全に接触すると溶融が始まり、そこからバリが発生してしまいますので、極力接触を避けた設定が必要です。また、上下ワークともに治具に装着した際と、振動中に遊びやガタつきがあると、接触面に充分な摩擦が起きず溶着出来なくなります。

ワークがブレないようにしっかりホールドさせるため、外周を押さえる「ブレ留め」の設計をしっかり行ってください。フランジの高さが充分に無いと、溶着中に治具から脱落するなど、ワークや治具の破損にもつながります。注意が必要です。

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振動溶着の課題解決

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バリの発生を最小限に抑えること

振動溶着機で最も大きな課題が「バリの発生」です。
前述の「振動溶着に適したワーク設計」でも解説したように、治具の形状にさまざまな工夫をしておりますが、それに加えて「高周波数化」により、バリの発生を最小限に抑えることが可能です。

超音波溶着との比較

振動溶着と同じ「振動」を利用して溶着する超音波と比べてみると、振動溶着の振動数が極めて少ないことが、おわかりになると思います。

超音波 :15kHz~40kHz(15,000回~40,000回/sec)
振動溶着:200Hz~260Hz(200回~260回/sec)

この振動数の差を補うために、移動距離(振幅)を大きくすることによって必要な熱量(摩擦熱)を確保しています。

超音波 :数μm~数十μm
振動溶着:最大約1.8㎜(P-P)

移動量が大きいため、熱量の分散やワークの削られる範囲も広くなるため、バリの発生量も多くなってしまいます。このバリを外部に出さない目的で設計する「バリ除け(トラップ)」により、製品サイズも大きくなる傾向にあります。

高周波数化でバリの発生を解決!

この課題を解決する方法が振動溶着機の「高周波数化」です。
高周波数振動溶着は、振動周波数を330Hz~380Hz(330回~380回/sec)にする(振動回数を増加する)ことにより、小さな振幅でも必要な熱量を確保できます。

振幅が小さく、移動距離が少ないことにより、下側の部品の削れる範囲が減ります。その結果、バリの発生を抑えることに成功しました。バリの低減により、不良率の低下が期待できるだけでなく、きれいな仕上がりとなります。

また、従来機に比べ低い振幅でも安定して振動させられるため、リブとトラップ(バリ除け)の距離を短く設定できます。振幅が1.8mmの場合、リブとトラップの間隔は1.5mm程度必要になりますが、振幅が0.8mmになれば、隙間は1.0mmに狭めることができます。高周波数振動溶着機を採用することで、部品のサイズダウンと使用する材料の削減が見込めます。